エンディングノートに記録する医療と介護の希望:具体的な書き方と注意点
医療や介護の希望を記録する意義
ご自身の未来に思いを馳せる時、医療や介護に関する不安を感じる方は少なくありません。もしもの時に、ご自身の意思が正確に伝わるか、ご家族に負担をかけてしまわないか、といったお気持ちを抱えることもあるでしょう。エンディングノートは、こうした不安を和らげ、ご自身の医療や介護に対する具体的な希望を明確に記録するための大切な手段となります。
この記録は法的な拘束力を持つものではありませんが、ご家族や医療・介護の専門家にとって、あなたの意思を尊重するための重要な指針となります。ご自身の希望を前もって整理し、具体的に書き残すことで、もしもの時に備え、安心して日々を過ごすことにつながります。
この記事では、エンディングノートに医療や介護の希望を記す際に、「何を」「どのように」考え、具体的に記述すれば良いのかを丁寧に解説いたします。
医療に関する希望を具体的に記録する
医療に関する希望は、ご自身の「生」と「死」に対する向き合い方を反映する大切な項目です。以下の点について、ご自身の考えを整理し、記録していきましょう。
1. 延命治療(えんめいちりょう)に関する希望
病気や老衰によって回復の見込みがないと判断された場合、生命を一時的に維持するための治療を延命治療と呼びます。
- 延命治療を希望するか、しないか
- どのような状況であれば延命治療を望まないか、具体的に考えてみましょう。例えば、「意識が戻らないと診断された場合」「人工呼吸器や胃ろう(いろう)といった、生命維持のための医療機器に頼る状態になった場合」などです。
- ご自身の尊厳を保ちたいという「尊厳死(そんげんし)」の希望についても、明確に記述してください。尊厳死とは、不治の病などで回復の見込みがないと判断された場合に、苦痛を伴う延命治療を拒否し、人間としての尊厳を保ちながら自然な形で死を迎えることを指します。
- 希望する治療、希望しない治療
- 人工呼吸器、胃ろうによる栄養補給、輸血(ゆけつ)、人工透析(じんこうとうせき)など、個別の医療行為について、希望するか、希望しないかを具体的に記述します。
- 治療内容の専門的な判断は医師に委ねる、といった意思も記録できます。
2. 緩和ケアに関する希望
病気による体の痛みや心の苦痛を和らげ、患者さんやご家族の生活の質(QOL)を高めることを目的としたケアを緩和ケアと呼びます。
- 緩和ケアを希望するかどうか
- どのような状況で緩和ケアを受けたいか、その具体的な内容(痛みの管理、精神的なサポートなど)について考えを記しましょう。
- 住み慣れた場所で過ごしたい、といった希望があれば、その旨も記述できます。
3. 臓器提供(ぞうきていきょう)に関する意思
もしもの時、ご自身の臓器を提供したいかどうかの意思を明確に記録しておきます。
- 臓器提供の意思があるかないか。
- ある場合は、提供したい臓器の種類や、脳死(のうし)判定に対する意思表示も行います。
4. その他
- 輸血(ゆけつ)や臓器移植(ぞうきいしょく)に対する信仰上の理由など、特別な希望がある場合は、その理由とともに具体的に記述してください。
- 医療に関する判断を信頼する人に委ねたい場合は、その方の氏名や連絡先、委ねたい範囲を記しておきましょう。
介護に関する希望を具体的に記録する
介護が必要になった場合、どのような生活を送りたいか、誰にどのように支えてもらいたいかを具体的に記録しておくことで、ご自身の思いが伝わりやすくなります。
1. 介護を受ける場所に関する希望
- 自宅での介護
- 自宅で介護を受けたい場合、どのようなサービス(訪問介護、デイサービスなど)を利用したいか、具体的な希望を記述します。
- 自宅の改修が必要な場合の希望(バリアフリー化など)もあれば、記しておきましょう。
- 施設での介護
- 施設での介護を希望する場合、どのような種類の施設(介護付き有料老人ホーム、特別養護老人ホームなど)を希望するか、施設の条件(費用、立地、設備、サービス内容など)を具体的に記述します。
2. 介護の内容に関する希望
- 誰に介護を頼みたいか
- ご家族、専門のヘルパー、友人のいずれに頼みたいか、またその際の具体的な依頼内容や留意事項を記述します。
- 日常生活に関する希望
- 食事(好き嫌い、食形態、食事の時間)、入浴(頻度、介助の有無)、排泄、身だしなみ(どのような服装を好むか)など、日々の生活におけるこだわりや希望を具体的に記しましょう。
- 趣味活動や外出の希望など、生活の質に関わることも記録しておくと良いでしょう。
3. 財産管理・金銭管理に関する希望
介護が必要になった際、ご自身の財産や金銭の管理について、誰にどのように任せたいかを明確にしておくことも重要です。
- 信頼できるご家族や専門家(弁護士、司法書士など)に管理を委任したい場合、その旨と、希望する範囲(預貯金の管理、医療費や介護費の支払いなど)を記述します。
- 任意後見制度(にんいこうけんせいど)の利用を検討している場合は、その意思や、候補となる任意後見人(にんいこうけんにん)の氏名などを記すこともできます。任意後見制度とは、ご自身が元気なうちに、将来の判断能力が低下した場合に備えて、財産管理や身上監護を任せる人(任意後見人)と契約を結んでおく制度です。
記録する際の注意点と心構え
エンディングノートに医療や介護の希望を記録する際には、いくつかの大切な点があります。
1. 具体的に、そして分かりやすく
ご自身の意思を正確に伝えるため、あいまいな表現は避け、具体的な状況や希望を記述しましょう。専門用語を使う場合は、ご自身が理解できる範囲で、平易な言葉で補足説明を加えておくことも有効です。
2. ご家族や信頼できる方との共有
エンディングノートは、作成したら終わりではありません。ご自身がどのような希望を持っているのか、ご家族や信頼できる方に話し、内容を共有しておくことが非常に重要です。また、エンディングノートの保管場所を伝えておくことも忘れないでください。
3. 定期的な見直しと更新
ご自身の考えや状況は、時間の経過とともに変わる可能性があります。エンディングノートの内容は、一度作成したら終わりではなく、数年に一度、あるいは大きなライフイベントがあった際に、見直して更新することをお勧めします。日付を記入し、最新の状態であることを示すようにしましょう。
4. 法的な効力との違いを理解する
エンディングノートはあくまでご自身の意思表示を記すものであり、法的な拘束力はありません。例えば、財産の分配に関する強い希望がある場合は、遺言書(ゆいごんしょ)という別の法的文書が必要になります。必要に応じて、弁護士や司法書士といった専門家にご相談することもご検討ください。
まとめ
医療や介護に関するご自身の希望をエンディングノートに記録することは、ご自身のためだけでなく、ご家族のためにもなる大切な準備です。未来への不安を軽減し、ご自身の意思が尊重される安心感を抱くことにつながります。
この記事でご紹介した項目やヒントを参考に、ご自身のペースで、一つひとつ丁寧にご自身の希望を整理し、記録してみてください。ご自身の思いを形にすることで、より穏やかで充実した日々を送る一助となることを願っております。